防衛機制

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防衛機制 (defense mechanisms)

 

 

 

【神経症にもなりかねないような葛藤の中で、自我が自分を守ろうとするすべての心理的手段】

 

◇エスに対する自我の防衛は静かに気づかれないところで行われるので、直接に知ることはできず

推測によって、それが利用されていることを再構成出来るだけである。

子どもが小さいときには、環境に適応するために防衛する。

防衛はまた人格全体の均衡を維持する心理的過程でもある。

防衛はいくつか組み合わされて複雑な現象として姿を現してくることが多い。

 

 

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◇防衛という用語が初めて使われたのは、

フロイトの論文「防衛・神経精神病」(1894)においてである。

この論文でフロイトは、ヒステリー、強迫神経症、幻覚的錯乱状態として分類される精神病の差異を

自我には耐えがたい観念表象およびそれに伴う感情(興奮量)に対する、

防衛機制の差異によって説明している。

 

◇フロイトは「制止、症状、不安」(1926)で、

「神経症をおこすかもしれないような葛藤状態に置かれるときに、自我が利用するあらゆる手段を

一般に防衛という用語で呼ぶことにする。」と述べている。

 

◇アンナ・フロイトは「自我と防衛」(1937)で、

「精神分析の県境腕、今までのところはっきりわかっていることは、防衛法は衝動的なものに対する

自我の戦いであり、自我が次のような3種類の不安にさらされるとき、防衛が起こる。」

 

すなわち

(1)衝動による脅威からの不安

(2)現実の危険からくる不安

(3)超自我(良心)のとがめから生じる不安

さらに、「矛盾する衝動の間に葛藤が生じる時にも防衛がおこる」と述べており、

不安を防衛する自我機能を彼女が重視していることがわかる。

続けて、

「だが、自我は内から生じる不快に対してのみ防衛するものではない(中略)

外の環境に対して、積極的に抵抗することができない小さい子どもの自我は、あらゆる方法をつくして

自我におそいかかる現実の不快や危険を防衛しようと努力する。」と言って、

臨床例を出して考察している。

 

 

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◇動物恐怖症の少年の事例 「ハンスの動物恐怖症」

*現実の環境の不快に対する防衛に、エスに対する防衛が含まれている動物恐怖症。

 

・この少年の神経症はエディプス・コンプレックスの正常な興奮にもとづいており、

内部と外部に向かって、同時に防衛過程が起きている。

5歳の少年ハンスは、母親を愛し、父親に対しては嫉妬のために攻撃的態度をとっていた。

その結果、父親に対するやさしい愛情と攻撃的態度との間に葛藤が生まれざるをえなくなった。

父親に対する攻撃的衝動の罰として、自分は去勢されるのではないかという不安がおきた。

彼はこの去勢不安を現実の不安と同じように恐れた。

そのため、あらゆる衝動に対する防衛が動員されるに至った。

 

この神経症では、「置き換え」という方法が利用された。

父親に対する去勢不安は、動物に対する不安に置き換えられた。

父親に対する恐怖を「反転」して父親から迫害されているという不安に変えた。

さらに、現実の実情を完全にゆがめてしまうために口唇期の特徴である咬みきられるのではないか

という不安にまで「退行」したのである。

これらの防衛機制によって衝動に対する防衛の目的は完全に満たされた。

しかし、恐怖症という機構の助けを借りて不安の発作を避けるためには神経症によくあるように、

ある特定の行動を制止しなければならなかった。

だから、戸外に出る事を断念しなければならなかったのだ。

フロイトはこれらの防衛機制を取り除きながら分析治療を進めていき、

ハンスの神経症を治療したのである。

 

 

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【代表的な防衛機制】(defense mechanisms)

 

◇自分が自己の存在を守るため、人格の統一、あるいは人格の一貫性を維持するために、

自我に対して心理的圧力をもつ現実や超自我などに対して抵抗し、防衛することを言う。

 

A)抑圧

・衝動やその観念的表象、願望を拒否し、意識に現れないようにする無意識的過程。

・外的な現実を拒絶して、不快な体験を認めないようにするはたらき。

「抑圧」が内からの脅威に対する防衛であるのに対し、

「否認」(denial)、否定は、外からの脅威に対する防衛であるところが特徴。

「子どもが不治の病である」と知らされても親が信じようとしない場合などが否認、否定にあたる。

 

B)退行(regression)

・前生殖器段階の未発達な段階に逆戻りすること。

・現在の状態より以前の状態へ、あるいはより未発達な段階へと逆戻りすること。

この用語は、Freud, S.によって当初心的装置に関する局所論的な意味で使われていて

発達的な意味はなかった。

Freud, A. は退行は他の防衛機制と組合わさって使われるのが普通で、

他の防衛機制とそれほど明確に区別できないとした。

治療の中で被分析者が全体的な幼児的退行状態に至るまでの様子を記述する中で、

治療の中で重視すべき概念としたのはWinicotto, D. W. やBalint, M.など。

これは「治療的退行」と呼ばれ、

患者が治療によって抱えられることによって病的な状態と健康な状態を橋渡しするものであるため、

治療にとって不可欠であると考えられている。

 

C)反動形成(reaction-formation)

・承認することのできない興奮が意識に現れた時に、反対の興奮に変化すること。

・衝動や願望が意識化されないように、その衝動や願望と反対方向の態度が過度に強調される事。

友人に対して腹が立つことがあり、批判したり非難していたにもかかわらず、

本人の前では親切なやさしい接し方をするなどがこれにあたる。

 

D)隔離

・他人を攻撃したり、叱ったりした場合、攻撃したり、叱った事だけを記憶して、

その時の感情に関係あるすべての事柄をすべて忘れてしまうこと。

 

E)打ち消し(undoing)

・他人を攻撃、非難しておきながら、そのあとになって、

あたかも攻撃、非難しなかったかのように親切になること。

・過去の思考・行為に伴う罪悪感や恥辱の感情を、それとは反対の意味を持つ思考ないし

行動によって打ち消そうとするはたらき。

「否認」は単に外界の不快・恐怖から回避することであるが、

「打ち消し」は、やりなしたり償おうとするところが特徴。

何度も手を洗うなどのいわゆる強迫神経症者の行為は、典型的な打ち消しであると解釈される。

※強迫神経症の防衛機制は「置き換え」になっています。

 

F)投影

・すべてのものに生命や魂があると考える児童のアニミズムは、

正常な精神発達において現れる投影である。

自分がケチな場合、他人がケチだと思う。

 

G)取り入れ

・口に適したものは何でも食べる。同一視は取り入れによって生じる。

上役がいばると、自分も威張る。

母親が乱暴な言葉を使うと、その子どもも乱暴な言葉使いになる。

 

H)自己愛的内向

・自分の気に入るような鏡像を作り上げ、それを見て安心したり、満足したりする。

 

I )転倒

 

J)昇華(sublimation)

・性や攻撃性など社会的に認められない衝動を芸術活動やスポーツなどの

より社会的・道徳的に価値のあるものに置き換えること。自我が自分を守るための手段のひとつ。

・社会的に容認されない衝動を、社会的に容認される形に変形させて表出させること。

攻撃衝動の強い人が、スポーツ選手や外科医になる。

レオナルド・ダ・ビンチが自分の同性愛的衝動を芸術に表現に昇華して、

「モナ・リザ」を生み出した(フロイトの解釈)など。

 

K)置き換え(desplacement)

・無意識のうちに、ある対象に向けられた自分の感情の対象を他のものに置き換えたり、

本来解決すべき問題を他の目標やほかの方法で置き換えてしまうことにより、

不満、恐怖、葛藤といった心の緊張を解消しようとすること。

・自分の衝動や願望をある対象(その衝動の原因となった対象)に向けることが、なんらかの理由で

容認されない場合、その衝動を他の対象に向けること。

自分の感情は理解しているが、それを生じさせた対象を誤る過程。

たとえば上司に怒られた人が部下に対して攻撃の矛先を向ける場合など。

 

L)合理化(rationalization)、 知性化(intellectualization)

・自分の行為の本当の動機を隠して、もっともらしい意味づけを行うことによって、

自らを正当化したり、罪悪感から免れるための心のしくみ。

・知性化とは、主として性的または攻撃的な欲求・衝動・感情を、直接表現したり

解放したりするのを避けて、これらを抑圧し、

知的認知や観念的思考によって統制しようとする防衛機制である。

 

Freud. A.(1895~1982)は、

合理化を、知性化という防衛が不安定になったり弱くなったものをみなし、

知性化の場合には、防衛されてる感情や欲動が分離されるとともに、

知性化の過程事態がこれらの代理満足を兼ねているのに対して、

合理化の場合には、防衛される感情や欲動が十分に分離されないままに

正当化されるものであるとした。

 

 

 

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【アンナ・フロイト】(Anna Freud, 1895年12月3日~1982年10月9日)

 

精神分析の創始者・ジークムント・フロイトの娘で、イギリスの精神分析家。児童精神分析の開拓者。

ウィーン生まれ。ウィーンのコッタージ・リセウム(Cottage Lyceum)に学ぶ。

1914年にイギリスに渡り、戻って自分が学んだリセで教鞭をとる。

1918年、父から精神分析を学び、その道に入る。

最初の論文は、1922年発表。1923年から精神分析家としての実践を開始。

同年、父ジークムントが癌である事が判明、以来雑務に支障を来たすようになった父親に代わり、

国際精神分析学会の事務局長、ウィーン精神分析訓練研究所の所長などを引き受ける。

1939年、父親が死去してからは、ますます児童心理学に専念。

メラニー・クラインとの研究上の意見の相違からイギリスの精神分析学会で論争を引き起こす。

その間にも弟子(たとえば、エリク・エリクソンなど)を多数育て、

戦争が子ども達に与えた影響なども調査。

特に、幼児の防衛機制についての研究が名高い。

 

 

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【ジークムント・フロイト】(ドイツ:Sigmund Freud 1856年5月6日~1939年9月23日)

 

オーストリアの精神分析学者。オーストリアの白人系ユダヤ教徒アシュケナジーの家庭に生まれた。

神経病理学者を経て精神科医となり、神経症研究、自由連想法、無意識研究、

精神分析の創始を行い、さらに精神力動論を展開した。

非常に詳細で精密な観察眼を示す症例報告を多数残した。

それらは、現在においても次々と新しい角度から研究されている。

フロイトの提唱した数々の理論は、のちに彼の弟子たちによって

後世の精神医学や臨床心理学などの基礎となったのみならず、

20世以降の文学・芸術・人間理解に広く甚大な影響を与えた。

弟子たちは、フロイトの考え方のどこかしらを批判した上でこれを受け継ぎ、

様々な学派に分岐し、それぞれ独自の理論を展開していった。

 

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※【参考文献】

「カウンセリング大事典」2004 小林司/編 新曜社
「自我と防衛」1985 A・フロイト/著 誠信書房
「自我と防衛機制」1998 アンナ・フロイト著作集 A・フロイト/著 岩崎学術出版社
「自我論 不安本能論」1970 S・フロイト著作集 S・フロイト/著 人文書院
「フロイト全集 第19巻」2010 S・フロイト/著 岩波書店
*1925-28年 否定、制止、症状、不安、素人分析の問題

「S・フロイト自我論集」1996 ジークムント・フロイト/著 筑摩書房

 

 

このブログ記事について

このページは、sscが2010年8月 8日 00:23に書いたブログ記事です。

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